チョコレート中毒(中) |
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| 「もう、嫌だと?」 黒いスーツを着た男が静かに私を睨んだ。 「はい、私はもう、これ以上、あの世界にいたくありません。」 私は汚いマントのままで小綺麗なこの部屋には酷く似合わないことに気付いていました。
「お前は何を言っているか分かってるのか?」
「私は、あの世界で毒を撒くことに疲れたのです。」
「毒、毒ではない…あの世界では甘い宝石だ」
私は大学を卒業してから、R菓子会社に就職した。元々甘いものが好きだったため何の苦にもならなかった。 しかし、バブルが弾け会社は倒産の危機を迎え、そのときトップにいた私やその他四人が集められた。 重々しい雰囲気の中、社長は「私が死ねば…」などと呟いた…その時、神の奇跡か…悪魔の悪戯か…あの世界の扉が現れた。 会議室の壁に先が見えないトンネルが突如現れ、半信半疑な田中がトンネルへ入っていった。 私たちは社員や家族にも言えない秘密の中、五日間、田中を待ち続けた。
五日目の朝、田中は笑いながらトンネルから出てきた。
「ああ、なんという素晴らしき世界!」 「田中っ大丈夫か!?」 五日たった田中のスーツは汚れ乱れていた。 「お前…五日も何をしていたんだ!」 「五日…そうか…五日も俺はあの世界にいたのか…」 夢現な田中に社長は 「田中くん、どんな世界だったんだね!?」 と興奮を隠せない様子で聞いた。
「奇跡です…奇跡なんですよぉ!あの世界には、甘いもの、お菓子が存在しないのです!!」
その奇跡のお陰で、この会社は外では売れないのに儲かっていました。 それは社員も、勿論部外者も不思議がりました。奇跡は私とトップの四人と社長だけの秘密になったのです。
「ねぇ、貴方…また出張なの?長くなるの?」 妻は私のスーツを掛け不安そうな顔で聞いてきた。また、というのも一度や二度ではなかったのでまたなのです。 そのトンネルができてからというもの、私たちは度々あの世界にお菓子を売りに行かされました。 妻は私には不釣合いな程、よくできた女でした。 私には娘もいます。妻に似て可愛らしい優しい子です。あの世界で抱いてしまった少女は娘とあまり年も変わらないでしょう。 私は罪悪感が膨らみ、いたたまれなくなりました。
私は、“こんなこと”のためにお菓子を作りたかったわけじゃない。売りたかったわけじゃない。
もっと、人を喜ばせたかっただけなのだから…
だがどうだろう、今私たちがしていることは…
つづく
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― もっと長くアップしたいのですが…すみません。
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12月24日(日)23:04 | トラックバック(0) | コメント(0) | 小説モルグ | 管理
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